第2章 菅の衝撃

 ぽっぽは目を開けた。
 (あれ……ここはどこ? どうしてぼくは、こんな所にいるんだろう……)
 頭を動かそうとすると、後頭部を中心に頭がズキズキとうずくように痛んだ。
 (い……痛っ!)
 (何でこんなに頭が痛いんだろう……ぼくはどうしたんだろう?)
 「よぅ、気がついたな、ぽっぽ」
 誰かの声がした。視界にロマンスグレーの男性が入ってくる。
 (小泉代議士?)
 彼は、三日月のような目をいっそう細めてにっこりと笑った。
 「心配したぞ。気分はどうだ?」
 「小泉さん……?」
 ぽっぽはかすれた声で囁いた。相手は、少し戸惑ったような表情を浮かべた。
 「総理、そろそろ……お時間が」
 小泉の後で誰かがそう言った。
 「じゃぁぽっぽ、また来るから……大事にしろよ」
 彼はそう言って、ぽっぽの頭を優しく撫でて、去って行った。
 (総理? 今そう言ったっけ……?)
 (まさか、そんなはずはないよね。聞き間違いだろう)
 (それにしても小泉さん、急に髪が白くなってどうしたのかな)
 入れ違いに、別の人物が入って来た。
 「ぽっぽ、気がついたのか? ……良かった。心配させんなよ」
 (社民連の菅直人さんだ)
 「気分はどうだ? 痛むか? ん?」
 「……痛い」
 「警察が話を聞きに来てるんだが、大丈夫か」
 「え? 警察!? どうして?」
 「どうしてって……覚えてないのか? 誰かに頭を殴られたんだよ。テレビ局で」
 「ええっ!!」
 ぽっぽは愕然とした。殴られたことはおろか、テレビに出演したことすら記憶にない。


 「お、覚えてませんよ……どうして、ぼくがテレビなんかに……」
 「おい、何言ってるんだ、ぽっぽ」
 菅が不安そうな表情を浮かべた。
 「それより国会はどうなっていますか?」
 「国会って、今は閉会中だろうが」
 「閉会!!?? じ、じゃあ総理は解散しなかったんですね」
 「おい……ぽっぽ、おまえ大丈夫か。解散って、何言ってんだよ」
 「だって、政治改革法案があんな形で廃案にされたんですよ。総理は国会を解散して、
選挙で国民に信を問うべきだ」
 「ぽっぽ……」
 菅の顔から、だんだん血の気が引いていった。
 「その、総理って……誰だ?」
 「どうしたんですか、海部総理に決まってるじゃないですか! ……ま、まさか総理は
解散せずに辞職しちゃったんじゃないでしょうね!」
 「……おれが誰か、わかるか」
 「菅直人さんでしょ? 社民連の」
 「今日の日付を言ってみてくれ……何年何月何日か」
 「え? どうしたんですか、そんなこと聞いて」
 「いいから。言ってみてくれ」
 「えーと、平成3年の9月……いや、10月だ。10月2日でしたっけ? それとも3日?」
 菅はよろめき、背後の椅子に崩れるようにへたりこんだ。
     *
 「ええ! 記憶が!?」
 岡田が大声で叫び、菅はあわてて唇に人差し指をあてた。
 「声が大きい」
 民主党本部の一室。菅は民主党議員の岡田克也と佐藤謙一郎を呼んで極秘の会合を開いていた。
 「どうやら、記憶が10年ぶん、すっとんでるようなんだ。……つまり、海部政権で政治改革法案をめぐってモメていた頃に戻ってしまってる」
 佐藤と岡田は10年前のその当時、ぽっぽとともに自民党で政治改革に取り組んでいた仲間だった。
その後、ぽっぽと佐藤はさきがけから民主党へ、岡田は新生党から民主党へ、という路をたどっている。

 「警察とマスコミには?」
 岡田が聞いた。
 「警察には事情を話して、マスコミはいっさいシャットアウトしてある」
 「重体説が流れるだろうな……ひょっとすると、死亡説も」
 「しかたない。当面は、警察から事情を聞くために雑音を入れないように、と言っておくさ……
だが、一時的な症状で済んでくれればいいが……」
 ぽっぽの怪我は当初事故の可能性も考えられたが、傷口の形や角度を調べた結果、後ろから強く殴打されたものと考えられ、
傷害事件として捜査が進められていた。しかし、目撃者もいなければ犯人の遺留品もなく、被害者であるぽっぽの記憶が頼りなのである。
それがすっからかんに失われたわけで、警視庁の担当者は頭を抱えていた。
     *
 同じ頃、小沢もまた頭を抱えていた。萌えを知った野中を出し抜くべく、
「萌えー」について各方面へ探りを入れ、鉄砲玉のタッ素に命じてぽっぽからメモを奪取させたのは良いが(やり方は良くないが)、
手に入ったのは純一郎の似顔絵に「萌え〜」と書かれた、どう見ても単なるラクガキにしか見えない代物だったのである。
 (しかも、絵がヘタクソだ……)
 渋面をつくり、何度もメモを見るが「ぽっぽは純萌え」以上の情報がどうしても読み取れない。
 (これは単なるフェイクか? これ以外に「萌え」メモが存在するのだろうか?)
 「いやぁ、メモの奪取には苦労しましたよ」
 反対にタッ素は上機嫌だ。参院選が終わらないうちから彼は、「太陽がいっぱい」のサントラCDをBGMに、
ぽっぽをおびき出すためのメモ作成に余念がなかったのである。
 「ばかもん」
 小沢は、なぜかそこにあったハリセンでタッ素を張り倒した。
 「誰があんな手荒な真似をしろと言った。ぽっぽはいまだに面会謝絶になっとるぞ」
 「証拠は残していませんし、顔も見られてないから大丈夫ですよ。エサにした呼出しメモも回収しましたし」
 「それにしても、野中さんが顔色を変えてたのは、本当にこのメモのことなのか……
いったい、このメモがどうしたというんだろうな」
 「少なくとも、ぽっぽ代表が総理に萌えていることはわかりますね」
 小沢は再びタッ素をしばき倒した。
 「萌えっちゅうのはメモを手に入れるまでもない。見りゃわかるだろ」
 「し……しかし、精神分析の手法で解析してみれば、もっとわかるかも……」
 小沢は、もう一発殴りたいのをぐっと我慢した。

backhomenext

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析