第2部
第1章 ぽっぽの受難

 その日、純一郎とぽっぽはテレビで生討論することになっていた。
ぽっぽは久々に純一郎と言葉を交わせる喜びを隠しきれない様子だった。
 それだけではなかった。スタジオ入りする直前、ぽっぽは誰からかメモを渡されたのだ。
そのメモを渡した人物はサングラスで顔を隠していたうえ、すぐに去ってしまたので、ぽっぽは顔を見る余裕すらなかった。
しかしメモには
「最初のCMの時に××スタジオ横の階段で2人きりで会おう。純」
と、純一郎の筆跡で書かれていた。
 (いったい何だろう?)
 ぽっぽの胸はいやがおうにも高まり、打ち合わせの内容も頭に入って来ないありさまだった。
だが純一郎は普段と同じように、クールにかまえている。
ぽっぽはそれが、少し切なかった。
 「鳩山さん、この間の討論ではCMの時の話を選挙演説でしゃべっちゃった
でしょ」
 「小泉にオフレコなしって言われてたのは貴方の方じゃないんですか?
国民に言えないことはぼくにも言っちゃダメですよ」
 「はっはっは、困ったな〜」
 いつもの調子で純一郎は笑う。余裕に見せかけながら、ぽっぽは必死だった。
 「じゃCM入りまーす」
 最初のCMだ。CMあけにはVTRが流されるので、時間的にはかなり余裕があるはずだった。
 ぽっぽは立ち上がった。
 「ちょっとトイレ行って来ますよ」
 純一郎の顔を見たが、反応がない。
 (後から来てくれるのかな?)
 二人いっしょに出ると不審がられるかも……そう思って、ぽっぽは先にスタジオを出た。
 「××スタジオ横の階段」は、廊下の端にあり、死角になって周囲からはよ
く見えないところだった。ふと不安が起きる。
 (こんな所で、いったい何の話があるんだろう? 改革に協力してくれっていう話かな?
それとも靖国参拝のこと? まさか新党……?)
 自民党と連立する意思は毛頭なかった。新党なら考える余地はある。
ぽっぽが目指しているのは、あくまで二大政党制だ。政権交代のないシステムを許すわけにはいかない。
 ……そんなことを考えながら、ぽっぽは階段の手すりに寄り掛かり、腕時計を見た。
 (あと5分くらいかな)
 そのとき。
 ぽっぽは背後に誰かの気配を感じた。
 振り向こうとした。
 しかし……。
 その寸前、背後に立った何者かは、手に持った鈍器のような物でぽっぽの後頭部を思いきり殴りつけた。
 衝撃に目が眩み、足場を失ったぽっぽは、そのまま階段を転げ落ちた。


 謎の人物は、ぽっぽが意識を失っているのを確かめ、上着の内ポケットを探り、
純一郎の似顔絵付き「萌え〜」メモを取り出すとニヤリと笑い、足早に立ち去って行った。
     *
 その頃スタジオでは……。
 「ぽっぽさんまだ? VTRもうすぐ終わっちゃうよ」
 司会者がイライラしていた。
 「ぼくが見て来よう」
 純一郎が立ち上がり、マイクをはずした。
 「え、総理が!?」
 「ちょっと気になるんだよなー、あいつが……」
 「じゃあ、VTRの後、しばらく福岡先生と会話でつないでおきますから、
すぐ戻って来てくださいよ」
 「わかったわかった」
 純一郎はスタジオを出た。SPたちが後に続く。
     *
 「いませんね」
 トイレは空だった。
 「他のフロアのトイレに行かれたんでしょうか?」
 「しかし、今日は向こうのスタジオは使ってないようだし、こんなに空いてるのにわざわざ他のフロアへ行くかな?」
 純一郎は首をひねり、廊下へ出た。
 「間違えて別のスタジオへ行っちゃった……わけはないよなぁ、こんなに近いのに。
それとも好きな女優さんが通りかかって、サインもらいに行っちゃったかな。ははは」
 冗談を言いながらも、純一郎は変な胸騒ぎを感じていた。
 (いつも生真面目に時間を守っているぽっぽにしては珍しい。……いや、今日は何となくいつもと様子が違っていた。
何度も、何か言いたそうにしていた。何があったんだ?)
 ふと、純一郎の耳に何かが聞こえたような気がした。気のせいかと思うほどかすかな、しかし気になる何かが。
 「今、なにか聞こえなかったか?」
 SPたちは顔を見合わせて首を横に振る。
 「確かに、何か聞こえたんだ……」
 ――タス……ケテ……
 (あれはぽっぽの声ではなかったか?)
 純一郎は、声がしたと思う方へ廊下を歩きだした。SPがあわてて彼に続く。
 そして電気の消えた暗い片隅から階段を見下ろし、純一郎は立ちすくんだ。
SPたちも一瞬動きを止める。
 「ぽっぽ!」
 階段にうずくまるように、ぽっぽが倒れていた。
 純一郎は階段を駆け降り、ぽっぽの身体を抱き起こした。
 「平目くん、救急車を呼んでくれ!」
 純一郎は階段に座り、ぽっぽの頭を膝にのせた。後頭部を触った手に血がついていることに気づき、愕然とした。
 「ぽっぽ……ぽっぽ、いったいどうしたんだ」
 「……うーん……」
 ぽっぽは目を閉じたまま眉根を寄せ、苦しそうに呻いた。
 やがてテレビ局らしくカメラマンとレポーターが駆けつけ、討論会は報道特番になってしまった。
民主党の代表が生番組の収録中に重傷を負い、総理がそれを発見したというニュースは、あっという間にニュース速報として全国を駆け巡った。

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