>小泉総理は昼食を取るだけの予定だった高知のホテルで、休息のため部屋をとった模様。(某ワイドショーより)

人目がなくなった、と思った瞬間、純一郎の体ががっくりと崩れた。部屋を取ってあるフロアでエレベーターを降りた時だった。
「総理!?」
すぐそばに立っていた馳議員が純一郎の体を抱きとめ、駆け寄ろうとしたSPを制した。
「いや、大丈夫だ…。」
そうは言っても膝に力が入らず、体を立て直そうとして余計に馳の方に傾いてしまう。
そんな純一郎を馳は、がっしりとした腕と胸で難なく受け止める。同時に自分に腹が立った。
純一郎が選挙戦の遊説をはじめてからずっと、すぐそばにいたのに気づくことができなかった。
(こんなに疲れていたなんて…)
しかし、それも無理はなかった。聴衆の前に立った純一郎は、神がかったように生き生きとしていた。
まるで千万の人間から何かエネルギーを得ているかのように。
でも本当はそうじゃなかった。純一郎は自分に残されたエネルギーを全て燃やし尽くし、吐き出していたのだ。
抱きとめた体は驚くほど軽かった。そして熱かった。熱があるのかもしれない。
部屋はフロアの奥まった所に取られていた。馳は少し迷った末、
「総理、失礼します!」の声と共に、純一郎の体を抱き上げた。俗に言う「お姫様だっこ」だ。
SPがあっけに取られた顔をしているのが見えたが、馳は構わずにずんずんと廊下を進んでいく。
しかし、歩きながら不安に思った。純一郎がおとなし過ぎる。
抱き上げられた瞬間は体を強張らせたが、すぐに体重の全てをぐったりと馳に預けてきた。
プライドの高い彼がこんな扱われ方をされて黙っているとは意外だった。
「怒っていらっしゃらないんですか?」
「なにを?」
「いえ…。」こんな風に男に抱かれて、と言いかけ、あまりにも不遜な気がして馳は言葉を飲み込んだ。それを察してか、
「…相手が君なら恥にはならんさ。」純一郎はかすれた声で答え、馳の逞しい胸を軽く叩いた。
すっかり抱き上げてしまっても、純一郎の体はやはり軽かった。
それもそうだ。今の純一郎の体重は、馳がベンチプレスで上げるウエイトの半分ぐらいしかない。
こんなにも細い、疲れきった体でどれほど重いものを背負っているのか、と考えると馳の腕に自然と力がこもった。
結局、馳は誰の力も借りずに純一郎を部屋まで運んだ。
職務に忠実なSPは総理と議員のためにドアを開け、閉じた。そしてドアの前に立って警備を開始した。
しかし、どんな時でも表情を崩さない彼の目に、珍しく感情が宿っていた。
それは嫉妬という名のものに似ていたかもしれない。
そして彼は人知れず祈った。大仁田が当選しませんように…と。

部屋に入った馳は、純一郎の体を慎重に横たえた。純一郎は既に目を閉じていた。息が荒い。
馳は少しでも楽になるようにと靴を脱がせ、上着を取り去り、ネクタイを解いてやった。
そして、ワイシャツのボタンをはずそうとした時、それまで忙しく動いていた手が止まった。
目の下にせわしなく上下する薄い胸がある。自分とは比べるべくもない、弱々しい体。
しかし軽く手を置くと、力強い鼓動が伝わってきた。
今ここで休んでも、この人はすぐに戦いの場に出て行こうとするだろう。
この心臓の鼓動に、本当の意味で危険が訪れるまで。
馳は苦しい気持ちになった。そして、ふとある考えが浮かんだ。
自分の力なら、肋骨の2、3本を折るのは簡単なことだ。そうすればこの人も休まざるを得ない。
せめてサミットに行くまでは…。
そこまで考え、馳は左右に大きく首を振った。
(そんなことを総理が本当に喜ぶと思うのか?)
危険な考えを頭から追い出すと、純一郎のきっちりと留まったワイシャツのボタンをはずし、襟をくつろげた。
あらわになった細い喉は、さっきよりは穏やかに呼吸しているようだ。
馳は安堵の息をついた。そして、純一郎の枕もとに腰掛けながら改めて考えてみた。
自分の鍛え上げた肉体が、精神が、疲れきって横たわるこの人のために、どんな役に立てるかを。

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