午前中の閣議のあと、純一郎はベットの中にいた。
それでもネクタイを抜き取っただけのYシャツ姿だ。
何かが起こればすぐにカメラの前に立たなければならない。
自分はそういう立場にいる。それなのに…
(こんなに弱くては話にならない。)
休もうとしているのに気が高ぶり、体に力が入ってしまう。
緊張をほぐそうと、大きく息を吸いゆっくりと吐き出す。
深呼吸のつもりだったが、長いため息のようでもあった。
そんな純一郎の様子を、部屋の隅から見守っている者がある。
飯島だ。苦虫を噛み潰したような顔をしている。
せっかく得た休息だというのに、当の本人がじっと天井を眺めてばかりだからだ。
夏風邪と過労。
冷房がきいた車と炎天下の街宣車との往復。分刻みでの長距離移動。
常に記者がぶら下がり、人目にさらされる緊張。
体調を崩さない方がどうかしている。
それなのにこの人は、まだ自分を痛めつけようと言うのか?
「そんな顔するなよ。」
はっと顔を上げると、純一郎が頭を傾けてこちらを見ていた。
困ったような、すまなさそうな微笑。
視線がぶつかり、思わず顔をそむけてしまう。
(誰がこんな顔をさせてるんだ)と、憎まれ口の一つも叩きたいところだ。
「とにかく、眠ってください。」
「そんなに見られてちゃ寝られんよ。」
「あなたが寝てくれないと、私はここを離れられません。」
たしなめられ、やれやれ…というように純一郎は頭を戻す。
姉が作った氷枕が、頭の下でガラリと鳴った。涼しげな音。
外は灼熱の酷暑。しかし、ここにはささやかな涼がある。
それを存分に享受できる幸せ。
それぐらいなら自分に許してもいい気がした。

目を閉じ、耳元で奏でられる氷の音を楽しむ。
カラカラ、カラカラ、カラカラ………。
「総理?」
飯島の問いかけに返事はなかった。返事がないことにほっと息をつく。
主人の寝顔を見ながらふと考えた。
自分はこの人が何をしてもついていくだろう。
そういう所まで来てしまった、と思う。
ただ、一つだけ許せないことがあるとすれば…。
「国政に殉死、なんて洒落にもなりませんよ。」
「…わかってるさ。」
返ってくるはずのない返事にギクリとする。
純一郎は目を閉じたままだ。が、口元がわずかに微笑んでいる。
「あんたって人は…。」
飯島はあきれたように大きなため息をついた。
そして、それでも魅せられている自分に心底あきれた。
ごまかすように意地悪く言う。
「さっさと寝て、さっさと直してくださいよ!予定は死ぬほど詰まっているんですから。」
「はいはい。」
おどけたような返事に、苦労の多い従者はまたため息をつき、主人は笑った。
ついぞ忘れていた平穏な時間。
しかし、それが長く続かないことはお互いにわかっていた。
外は午後の日が照りつける灼熱の世界。
また、すぐにそこへ出ていかなければならないことを。

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