その日、慎太郎はなんの前触れもなく純一郎の部屋を訪れた。
二人が知り合ってから、既に何年かの歳月が流れていた。
二人の仲は、誰の目から見ても親密さを増しているように見えた。
しかし、慎太郎には分かっていた。
純一郎がこちら側に必要以上に踏み込んでこない代わりに、誰も自分の側に踏み込ませないことを。
そして、それは自分との関係だけでなく、政界での人間関係、全てにおいてそうであることを。
(このままではあいつはダメになる。)
慎太郎は政治家としての有能でありながら、あまりにも頑なな純一郎が歯がゆかった。
(そっちから出てこられないなら、こっちからぶち破ってやる。)
そのためには、彼が準備を整える前に奇襲をしかけなければならない。
純一郎が堅い仮面の陰に、自分を押し隠すスキを与えずに。
「お待ちください!代議士!!………石原さんっ!!」
議員会館の廊下を大股で歩く慎太郎に、純一郎の秘書、飯島が追いすがる。
最後の砦であるドアと慎太郎の間に、飯島は意外な素早さでするりと割り込むと、
さながら城主を侵略者から守る門番のように、慎太郎の前に立ちはだかった。
飯島が背にしたドアからは、大音量の音楽が漏れ聞こえてくる。
叫ぶようなオペラのアリアだ。
「どいていくれ、飯島さん。」
「申し訳ありませんがお断りします。今、小泉は誰とも会わない…会えないんです!」
「…なぜ?」
問われて飯島は口ごもる。飯島自信、直接純一郎に問いただしたことはない。
ただ、誰とも会おうとせず、口をきくことすらせずに、
ひたすら音の激流に身をひたしている純一郎を初めて見た時のあの驚き。
共に歩んできた自分が見ても尋常でなく、他の人間の目に触れたら悪い噂が立たないとも限らない。
そしてその「噂」こそ、永田町では致命傷になる。
「私は、守ってやりたい。小泉を。それだけです。」
「それだけじゃダメなんだ!」
慎太郎は吼えるように叫んだ。
「あんただって分かっているんだろう!?分かっていてあいつをこのまま潰す気か!?」
尊大な物言い。しかし、その目はまるで懇願する者のようだ。
「石原さん…。」
飯島は慎太郎の視線を受け止めきれなかった。負けた…と思った。
そして慎太郎に背を向けると、ドアを強くノックした。
「代議士!お客様です!」
城主に忠実な門番は、道をあけた。
相手が侵略者ではなく、臆病な王子を救いに来た騎士と信じて。

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