CDプレイヤーのプレイボタンを押し、ソファに体を投げだす。
総理就任以来、眠れない日々が続いている。
アメリカ、ヨーロッパ訪問以降は食欲も落ちた。
帰国してからも山積みの問題、炎天下での街頭演説……。
体の疲労が極みに達しているのはよく分かっていた。
これ以上自分を追い詰めるのは、緩慢な自殺に他ならないことも。
今は激務の合間を縫っての、ほんのわずかな休息の時…のはずだ。
しかし、スピーカーから流れ出したのは、あの曲。
“過ち”を犯した時の、罪深きBGM。
安らぐためにこの曲を選んだのではない。
彼は思い出そうとしていた。自分が過去に何をしたのか、
そして、その結果が何をもたらそうとしているのか…。
聞くものがいない懺悔にも似た回想は、自分の醜さと対峙する苦行だ。
しかし、やらねばならないことだと確信していた。
これから立ち向かわねばならない、さらなる困難に打ち勝つための、“強さ”を手に入れるために。
そして、これ以上“犠牲者”を増やさないために。
音の洪水の中にたゆたいながら、甘苦い記憶をたどるべく、純一郎は目を閉じた。

思い出すだけで全身の皮膚が粟立つような感覚が、かつて純一郎を蝕んでいた。
粘つくような視線や、無遠慮に触れてこようとする、汗ばんだ手の生暖かさ。
ただでさえ欲望や謀略が渦巻き、裏切りが日常とされる世界で、
純一郎はそんなものとも戦わねばならなかった。
自分の中の何が人をそうさせるのかが分からず、若い純一郎は困惑した。
そして、ただひたすらに自分を律し、他人を拒絶することで身を守った。
ストイックで孤高な様は、人をして彼を「青年将校」と呼ばしめたが、
その心は言い知れぬ孤独感に苛まれていた。
政治は独りの力でできるものではない。
同じ世界の人間に心を開けなくては、何も成し遂げられないまま
政治生命を断たれてしまうだろう。
こんな所で道をはずれ、逃げだすわけにはいかない。
志半ばにして倒れた父のためにも。
そのためには、何者にも惑わされないような強さが欲しい。
そう願いながらも純一郎は、自分をなぐさめる音楽で満たした部屋に閉じこもるのを
やめることができなかった。
自分で硬く扉を閉ざしながら、純一郎はその扉を開ける者の出現を求めた。
扉を破り、孤独という陶酔の中から自分を引きずり出す“強さ”を持つ者を。
そんな純一郎の前に現れたのが慎太郎だった。
作家、俳優、そして政治家へ鮮やかな転身を成し遂げた男。
常に国民の視線にさらされながら自信に溢れている彼は、純一郎の目に眩しく映った。
洞察力と判断力に富んだリアリストで、理想と野心に燃えたロマンチスト。
志を同じくする者として国政の未来を語り合ううちに、
「彼ならば」というほのかな期待を純一郎は抱いた。
慎太郎は慎太郎で純一郎に少なからず興味を持った。
まだ若いが、自分の足元だけでなく国の根幹を見据える目に長けている。
何よりもこの世界にありながら、群れるのを嫌う一匹狼的な気質が気に入った。
こいつならいつか一緒に、腐った日本をかき回すことができるかもしれない。
「その時」のことを思うと心が躍った。
しかし、慎太郎はやがて気づくことになる。
悲壮なまでに背筋を延ばし胸を張った彼が、隠し持った“影”に。

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