あの頃の僕は若かった。
青臭い、ほんの子供だった、とすら今の僕には言うことができる。

あの日、僕は父からことずかった書類の入った茶封筒を
しっかりと胸に抱いて 、あの人の住む高輪の議員宿舎に向かった。
僕は有頂天になっていた。
あの厳しい父から信頼され、重要な書類を託されたことは、
大人の一員として認められたのだという満足感を僕に与えた。
そして、密かに憧れてたあの人を訪ねる喜びで、歩くのももどかしく、
気持ちはすでに駆け出していた。

僕は守衛に教えられた部屋の扉の前に立った。
部屋の中からは大音響が鳴り響いていた。
ノックをしたけれど返事がなかった。

「あのー、純一郎さん?」恐る恐るドアノブを回した。
いきなり飛び込んできたのは、耳を覆いたくなるほどの音、音、音の洪水。
厳かな中にも悲しみをたたえた、その曲の名が何であるかを、
そのころの僕には知る由もなかった。

あの人は部屋の隅の方でうずくまっていた。
声を掛けてもいいのだろうか?でも父から預かったものを
渡さなければ。
「純一郎さん、伸晃です」
あの人はゆっくりと顔を上げた。
あの時の、あの瞳の色を僕は一生忘れない。
僕はそれまで、あんなに孤独な瞳を見たことがなかった。

突然、強い力で引き寄せられた。
書類が、落ちた。

「大丈夫で・・・」僕の言葉は、発せられたまま宙を漂い、消えた。

音楽は、相変わらずの大音響で鳴り響いていた。
でも、僕の耳はあの人の心臓の音、ただそれだけをを聴いていた。

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