その日、中谷は執務室に珍しい客を迎えていた。
入閣以来、閣議でよく見知った顔ではあったが、個人的に話をしたことはほとんどない。
それにも関わらず、客人は部屋に通された早々に人払いを要求した。
「何か重要なお話ですか?」
いぶかる中谷に、彼はうなづいてみせた。
「ええ、大変重要です。我々の内閣にとっても…。」
ここで一段声を低くし、囁くような声で
「…あなたの大切な方にとっても。」
と、童顔に人懐こい笑顔を載せたその男、竹中は答えた。
もって回った、それでいてこちら側に土足で踏み込むような物言い。
油断できない…と、中谷の中の何かが直感する。
「私の『大切な人』のことはともかく、」
困惑を読み取られないよう、完璧な微笑を浮かべてみせながら、
「内閣に関わる話なら、お聞きしないわけにはいきませんね。」
中谷は彼に席をすすめた。
二人きりになったところで、竹中はスーツの内に手を入れた。
「実は面白いものが手に入りまして。」
彼が取り出したのは一葉の白封筒と、記者が使うような小型の音声レコーダー。
中谷は几帳面に並べられた二品に視線を落とした。
これが内閣と『あの人』に関わるものなのか?
「開けても良いか?」と目でたずねると、相手も目で「どうぞ」と応える。
中谷は白封筒を手に取り、封を開けた。
中身が数枚の写真であるのはすぐに分かった。
そこに写されているものが目に入った途端、中谷の目がわずかに見開かれた。
その表情は物語っていた。「なんだこれは?」と。
隠し撮りされたらしい写真はわずかにピントがずれ、それが秘密めいた雰囲気を作っている。
しかし、そこに映っている人物は十分に判別できた。
それはピンクの白衣をまとった扇と、彼女に聴診器を当てられる小泉だった。

確かにこの写真からは、何かただならぬ物を感じる。
だがこれだけならあの二人特有の、いつもの「悪ふざけ」の域を出ない。
これがマスコミの前で行われたものなら、軽いパフォーマンスの一つとして扱われる程度のものだ。
この写真だけなら…。
そんな中谷の心の動きを見透かしたように、竹中は自らレコーダーを手に取って再生ボタンを押した。
そこから流れ出したのは、防衛庁長官の執務室にはおよそ相応しいとは言えない代物だった。
『あなたは私のものよ…。』
艶めいた男と女の会話。上ずったような息遣い…声の主は言うまでもない。
これが内閣総理大臣の執務室という、密室で取り交わされたのだとしたら?
ふいに音声が途切れた。
「まだお聞きになりますか?」
眉間にきつく皺を寄せながら、写真から目を離せないでいる中谷に竹中はたずねる。
中谷と対照的に、顔には微笑を浮かべたままだ。
「いや…。」
中谷はため息と共に小さく応えた。

backhomenext

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析