プールサイドを歩く、水着姿の女性。このナイスバディの持ち主は!?という煽りより先に、画面にプリンスの目が釘付けになったのは、男のサガだ。
ただ、それだけならマキコは何も気にしなかっただろう。が、その水着の女性が辻元社民党議員と判明した時、空気は凍った。
歯に衣着せぬ物言いで自民党の天敵、マキコにとっては見るも不快なナニワの元気者・辻元…。
じろり、と何よりも雄弁なまなざしがプリンスを一瞥した。
だがマキコは何も言わなかった。プリンスが意外に思ったことに、マキコは延々と映し出されるピンクTシャツの辻元にも目を逸らさずにいた。
しかしマキコのポーカーフェイスも、辻元が今夏の本を挙げるまでのことだった。
辻元議員が挙げた本は、あろうことかマキコ自身を追及した本、「疑惑の相続人 田中真紀子」だったのだ。
その上。本を掲げた辻元は、にっこりと笑みさえ浮かべて言い切った。
「今度の国会で追及してやろ思って。ネタ探しに読んでます」
ネタ探し…ネタ探し…ネタ探し…。
あまりの言いように頭がループしていたプリンスは、ガラステーブルに拳が叩きつけられる音で我に返った。

「マ、マキコさんてば…」
怒りのあまりマキコの頬は紅潮していた。眉は当然、思いきり吊り上っている。
「なんなの、これは!?こんな内容、どうしてTVは放送するわけよ!!」
きー!とさらに怒りが込み上げてきたマキコは再び両の拳をテーブルに打ちつけた。
慌てて、プリンスがその手を押しとどめる。
「駄目だよ、そんなことしちゃあ」
「離してよ!あんなこと言われて我慢なんか出来ないわ。パパってば、なんで止めるのよ」
プリンスはもがくマキコの両手をぐっと掴み引き寄せた。
「そんなんじゃないよ。僕は君の手を心配してるんだ。ほら、力任せにするから赤くなってるじゃないか」そっと強ばった指に触れながら真顔で告げる。
「パパ…」
「こんなこと、しちゃいけない。物に当たるんなら、投げるだけにしときなさい」
ほら、あれとかそれとか、投げやすいものはいっぱいあるじゃないか。
そう指差す先にはバカラのクリスタルガラスの置物が整然と並んでいた。
…一般常識からかけ離れたプリンスの物言い。だがマキコを感動させるには充分だった。
「パパぁ〜」
マキコは、顔をくしゃくしゃにしてプリンスにしがみついた。そのままわんわんと泣き喚くマキコを抱き寄せ、プリンスはその背を大きな手のひらで不器用になでた。
TVは、鳩山家の別荘を映し出していた。広大な庭、落ち着いた避暑地での夏休み。そしてゆっきー代表の挙げた本の紹介。
ゴルゴ13か…。いい本読んでるな。
横目で画面を眺めていたプリンスは、腕の中の妻がようやく泣き止んだことに気が付いた。
ぽんぽんと背中をあやすようにたたき、優しく尋ねる。
「落ち着いたかい?」
顔をあげぬまま、マキコはこくりとうなづいた。
「じゃあ、涙を拭いて。またこの続きを見ようじゃないか」
鼻をすすってマキコは顔をあげた。
「じゃあ、あの本買って」
「…本?」
「さっきの、総理の本」
「ああ…」プリンスはマキコに見えないように苦笑すると、妻の耳元に囁いた。
「わかったよ。確か塩野七生は、最近いろいろ刊行されていたはずだ。以前の本とかね。明日、全部書店で取り寄せよう。それで良いね?」
「ええ。…パパってば、なんでも知ってるのね。やっぱり大好き!」
マキコは破顔して、プリンスに飛びついた。


プリンスに自分の感情をぶちまけて気分も晴れやかになったマキコは、それまで任せっぱなしだったビデオの山を覗きこんだ。ふと、一つのタイトルに目を惹かれた。
「あら、これなあに?良いじゃない、次、これを観るわ」
積み上げてあったビデオの山からテープを抜き出し、プリンスにちらりと見せるや、デッキに
マキコは突っ込んだ。
…えっ?あああ〜!
プリンスは心の中で叫んだ。それは、お手伝いさんがプリンスにマキコに見せない方が…と注意書きして別にわけていたものだったのである。
常は控えめなお手伝いさんが自ら申し出るのだから、中身は確認していないが、よほどまずいものが映っているに違いない。
決して妻の目に触れないように、とプリンス自身、山を二つにして避けていたはずだった。
しかし時すでに遅し。ビデオは再生を始めていた。
番組のタイトルロールが出る。
「おしゃれ関係」
確かにマキコが好きそうな番組だ。だが…とこれから起こる何事かにおびえつつ、プリンスは機嫌良くTVを眺めるマキコの隣に座った。
…ああ。これか。
はじまってすぐに、プリンスは重いため息を漏らした。番組のゲストは、国土交通省の奥義テ
ィカゲだった。だがマキコはといえば、ゆっくりと手をあごに当てたくらいで何も言わずに画
面を見ている。このあたりで消してしまえば良いものを、意地っ張りでもあるマキコは、それ
を良しとしないのだろう。プリンスは観念すると、番組に集中した。
まずはティカゲの女優時代の写真が映され、彼女がいかに美しかったか、の話が延々と聞かされる。
ついで、福田武夫氏や安倍晋太郎氏がティカゲを政界に誘ったこと…。
敵派閥とはいえ昔話は懐かしいもので、二人は思わず過去の時代に浸ってしまう。
あの頃、君は。
あの頃のあなたは。
若かった。

が、読者からの質問、に田中家の空気は一変した。
「奥義さんはマキコさんをライバル視してるんですか?」
ぴき、と居間の空気が1℃下がった。
その話題を振るか、司会者〜!
プリンスの呪いの念は画面の中のめがねの男には届かない。そしてにこやかなティカゲにも。
ティカゲはにっこりと微笑むと大仰にかぶりをふった。
「とんでもない!」
「本当ですか〜?」
「あたくしがあの方とライバルだなんて、本当とんでもない」
「またまた〜。嘘でしょう?」
執拗な司会者の追及。いい加減にしろ!と叫びたくなるのをプリンスがこらえていると、ティカゲが本当に「とんでもない」ことを言い始めた。
「だって、あの方は親の七光りがありますもの。あたくしなんか、とてもとても」
また、気温が下がった。
ティカゲの顔には余裕が満ちている。とてもとても、と謙遜しながら、その意味することは反対なのは明らかだった。
直訳するならば、あんな七光りだけの小娘とこのあたくしを一緒にするんじゃないわよ、馬鹿ね、と言ったところだろうか。
「七光りねえ。でも、奥義さんには美貌があるじゃないですか」
…この時、プリンスは本気でこの司会者の口を塞ぎたくなった。
「案外、マキコさんの方が気にしてるかも。ですから、ぜんぜん負けてませんよ」
「まあ、いやだわ。ほほほほほ」
ティカゲの高笑い。それにクリスタルの煌きが叩きつけられた。ティカゲのアップを、きら
きらとしたガラスの欠片が彩り、そして滑り落ちていく。
ガシャーン、ガシャン、と次々にマキコの投げるクリスタルの塊は正確な弧を描いて液晶画
面にぶち当たり、砕け散った。
マキコの顔は怒りを通り越して無表情だった。こうなっては、止めても無駄だ。
ソファの上で硬直していたプリンスは、ようやくそう判断すると、マキコ自身に被害がない
かだけを確認してソファの裏に大きな体を丸め、しゃがみこんだ。
そうして安全圏を確保すると、妻の厳しい横顔、また凍りついた空気の中、降り注ぐ氷のシャワーにうっとりと見入った。
マキコ、素敵だよ。


backhome

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析