>>午前中は来客なく、公邸で書類整理などをして過ごす。
>>午後も来客なく、公邸で書類整理などして過ごす。

ふぅ・・・・・・

礼状書きに疲れた純一郎は、どさりとベッドに寝ころがった。
窓の外には7月の光を孕んだ雲が浮かぶ。昨日よりすこしばかり凌ぎやすいのがありがたい。

眼を閉じる。ロンドンの午後が蘇る。
「マダム、ひさしぶり!」
「Jun...こんなに立派になって! Prime Ministerになって我が家に帰ってきてくれるなんて」
「ぼくも総理大臣になれるなんて思ってなかったんだよ・・・」
だれの視線も届かない玄関の内側で、二人は眼をうるませて抱きあった。
「でもマダムのおかげで、ぼくはブッシュさんともブレアさんともいい話しあいができたんだ」
「まあ、この歳まで生きていてよかったわ・・・」
かつてのホストマザーは、すっかり頬のこけた純一郎にも昔の面影をみていた。
「あのころと同じでちっとも太らないのね。ちゃんと食事はしているの」
そう、痩せぎすの純一郎の食の細さを、口うるさいほど気づかってくれていたのだ。
「大丈夫ですよ。いまやぼくは美食家で通っているもの」
「それじゃこれは、気に入ってくださるかしら」

傾きかけた夏の太陽が、リビングのテーブルに運ばれた、焼きたてのスコーンを照らしている。
35年前と同じ、すてきに香ばしい匂いだ・・・

そして、わずかな音とともに注がれたダージリンのしっくりと深い味が、
まるで小説のように、告げることなく記憶から消えていたはずの言葉を思い出させる。
灰色の瞳の、ふわりとした身ごなしの、見知らぬ国の歌をうたう、あの人への言葉を。

「これはぼくの色紙です。壮にして学べば老いて朽ちることなし、それから・・・」
純一郎が思いをこめてさしだした小箱を開くと、そこにはきらりと光るものがおさまっている。
「ありがとう。わたしの宝物だわ。でも、今夜も、ここに泊まっていらっしゃればいいのに」

たぶんそれは、二度とかなえられないことなのだろう・・・
あの日、そんな思いを呑み込んだ胸の疼きが、東京の湿った空気とともに
ふたたび爪の先まで染み通っていった。

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