美代吉は本当はこうして何も話さずに、ずっと二人で座っていたかった。しかし、それではこの人は行ってしまうだろう。
そう思うと、どうしようもなく悲しくなる。寂しくなる。
やりきれない思いでうつむくと、石の上に白い手があった。少し骨の浮いた甲。上品な長い指。………純さんの手。
美代吉はその手に自分の熱い手を重ねた。触れられた刹那、その手はひくりと動いたが、逃げはしなかった。
美代吉はそれに安心し、愛しい人の肩にそっと寄り添った。
「純さん…。」
しどけない、甘えるような声にも、純さんはまっすぐに池の方を向いたままだ。手も石のように動かない。
美代吉はじれったくなった。
憎からず思われているのは分かっている。それなのに、なぜこの人は…。
美代吉は両手で純さんの手を捕らえ、自分の胸に押し当てた。恥知らずと思われても構わなかった。
純さんはやっと美代吉を見た。彼の目に美代吉の潤んだ瞳が映った。
「………随分、飲んでるな。」
「ええ、飲んでます。酔ってますよ。純さんは?」
「飲んでるし、酔ってる。だから………困る。」
困る?
やはりこの人は逃げてしまうのだろうか?行ってしまうのだろうか?
美代吉はやっと捕らえた手を逃すのが惜しくなった。
自分が欲深くなっているのが分かったが、一度火のついた気持ちは止められなかった。
純さんの目をじっと見つめたまま、その手を宝物でもしまうように胸元に導き、そっと差し入れる。
「美代…吉。」
純さんの硬い手に美代吉の滑らかな肌の温もりが、早鐘のような胸のうずきが痛いほど伝わる。
これでもう知らぬふりはできない。
とうとう捕まえた…と、美代吉は思った

純さんの残された片手が美代吉の背に回り、美代吉はその胸に溺れこんだ。
胸元に差し入れた手がそっと抜き取られて背に回り、美代吉をやわらかく抱いた。
美代吉は幸せだった。このまま死んでも良い、とすら思った。
しかし、次の刹那…。
「…すまない。」
搾り出すような純さんの声。その重い囁きは、地固めの槌のように美代吉の耳を、胸を打った。
美代吉は居心地の良い純さんの胸に手をつき、その身を引き剥がした。
「純さん…どうして…。」
手の中にあるワイシャツを握り締めてかき口説く。
「一度…一度きりでもいいんです。決して未練なことは言いしません。だから………。」
その目にはこぼれんばかり涙が溜まっている。さっきまで嬉し涙だったそれは、今はもう別のものだ。
ふいに純さんの右手が上がった。長い指がそっと美代吉のこめかみに触れ、掌がふわりと頬を包みこむ。
「美代吉…。」
そして、名を呼ばれる。不思議にそれだけで、潮が引くように気持ちが静まった。
まるで魔法にでもかかったように、その声に縛られる。
そんな美代吉の様子を見て、純さんの目がふと和んだ。
「なあ、美代吉。俺も人並みの男だ。それなりに欲だってある。相手を選んで遊びもするさ。でも、お前は………。」
涙の引いた美代吉の目が、純さんの三日月型に細った目の奥を覗き込む。墨を流したように黒く澄んだ目。
そこにあるものは美代吉の目に、この上なく優しいものに映った。
…肌を重ねて得るものもあるだろう。でもそれは何かを失うことかもしれない。少なくともこの人にとっては…。
美代吉は握り締めていたワイシャツから指を解くと、すねた小娘のような仕草で、愛しい人に背を向けた。

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