首脳会談として設定された時間も、残りわずかとなった。
大統領は突然立ち上がり、鷹揚に周囲に告げた。
「さあ、我々を二人きりにしてくれないか?友人同士で話したいことがあるんだ」
両国のスタッフも、そして純一郎も驚いた。が、大統領たっての希望に特に異議を唱える者はいない。
むしろこうした情勢の中で二人が個人的な繋がりを強固にするのは、良いことのように思われた。
大統領の希望はすぐにかなえられ、二人を取り巻いていた人間は通訳も含めて部屋を出て行った。
それを見送る純一郎に、晋三は何か言いたそうな視線を向けたが、促されるままドアを潜った。
静かになった部屋で、両首脳は向かい合った。
しかし、この状況を希望したはずの大統領は何も言わない。
この場での主導権を持たない純一郎は、黙って彼の言葉を待つしかなかった。
やっと大統領が口を開いた。
「ジュンイチロウ」
今まで極めて情熱的に意見交換をしていたのとは、うって変わった弱々しい声。
「はい?」
「ジュンイチロウ…」
「…はい」
返事をしているにも関わらず、大統領はくり返し純一郎の名を呼んだ。
まるで彼がそこにいることを確かめるように。
「…ジュンイチロウ!」
もう一度名前を呼ばれた時、純一郎は返事をできなかった。
いきなり抱きすくめられ、驚いた彼は言葉を失った。
「無礼なのは分かってる。だが許してくれ。このままで聞いて欲しい。聞いてくれるだけでいいんだ」
非常識で大胆な行動とは裏腹に、細い体を抱きしめる逞しい腕は、小刻みに震えてさえいる。
懇願するような言葉にもほだされて、純一郎は緊張に体を強張らせながらも彼の願いを聞き入れた。

「国民もマスコミも議会も、世界の国々もほとんどが今は私の味方だ。このままいけば私は英雄になれるだろう。
いや、英雄にならなければいけないんだ。国民の期待に応えるためにも。しかし、一歩間違えば…」
純一郎を抱く腕にまた力が入る。まるで何かにすがるように。
「私は…悪魔になってしまうかもしれない」
正義の名の元に高揚する国民、世論。次々と賛同を示す同盟国やその他の国々の声明。
その中にあって、それは誰にも聞かせられない告白。それなのに…。
(なぜ、私に…?)
そう思いながら、純一郎はこの超大国の大統領が憐れに思えた。
決して弱みを見せず、常に強いことを求められる男。
そのつらさを、彼は十分すぎるほど知っていた。
体の強張りを解き、自分を抱きしめる手にそっと触れる。
「…英雄になどならなくてもいいじゃないですか」
その言葉に、純一郎を戒めている腕の力が少し緩む。
「あなたが英雄かどうかはその仕事振りを見て、後の人が決めることではないですか?
もし英雄として評価されなくても、精一杯のことをすれば何ら恥じることはないでしょう」
腕が解かれ、わずかに潤んだ目が穏やかな笑顔を浮かべた純一郎を見つめた。
「少なくとも、私はそう信じています。そのためなら私は協力を惜しみません。しかし、
もしあなたが悪魔になってしまいそうな時は」
純一郎の表情が変わった。意志の強い、獅子の顔。
「私は全力であなたを止めます。同盟国の首相として、そして友人として」
「ジュンイチロウ…」
大統領は、もう一度純一郎の体を抱きしめた。
「世界一強い男」の腕に取り込まれながら、純一郎は思った。
(そう、出来ることを精一杯するしかないんだ。俺は…)
自分に送られる賞賛と批判。その両方に時に惑わされそうになる弱さ。
純一郎は大統領を諭しながら、自分の迷いも断ち切ろうとしていた。

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