予算委員会のその席で、俺は目を深く閉じ、座っていた。
目を閉じることで、すべての感情を封じ込めようとしていた。
だが、悲しみは、鋭いナイフの様に、俺の心を突き刺してきた。
いや、突き刺してきたのは、あいつの視線。
大きな目で、俺をじっと見つめていたあいつの視線。

俺は思う。
俺はいつからあいつの敵になったのだろうかと。
多分、俺が手にした権力の大きさが、すべてを、変質させてしまったのだろう。
・・・あなたに、この国を任せられません・・・
・・・わたしが、あなたを倒します・・・・・・
これが、あいつが投げかける、今の、俺への言葉。

俺は、目をあけると、出来る限りの微笑を浮かべて、立ち上がった。
無邪気な時間はとうに過ぎ去ったのだ。
一瞬、絶望にも似た痛みが俺の胸を擦ったけれど、
もはや、非情であることに、何の躊躇もいらないわけだ。

俺は、ベッドに横たわり、天井を見ていた。
・・・・眠れない日が続いている。
起きている間中、自分の感情は、すべて押し殺した。
この国の未来への責任を、担った以上、自身の感情など、何の意味もない。
批判、批判、批判の渦中でも、俺は、静かな怒りを演じてさえみせた。

たが、ひとたび、眠りにつこうとすると、あらゆる感情が押し寄せてくる。
天井の暗い闇の中、浮かび上がる面影に、俺は再び目を閉じた。
だが、閉じても、閉じても、その面影は、脳裏に浮かび上がり、俺を苦しめる。
大きな目、涙に濡れているような瞳。
その面影は、あいつによく似てはいたが、もっと遠い昔の誰かにも似ているように思えた。
・・・私を選んで下さい。私だけを見て下さい・・・・遠い昔、その人の想いを断ち切った。

実際、非情な男だよなぁ。
俺は、眠ることをあきらめて、起き上がった。
浴室まで進むと、鏡の中に、青ざめた顔の男がいた。
あんたは孤独なのかい?・・・・すると男はふっと笑った。まるで、舞台の上の影法師のように。

疲れ果てていた。
執務室の机に突っ伏したいほど、体がだるかった。
会議、予算委員会、会議、会見、会談、また会見・・・
・・・昨日から殆ど寝ていない。
椅子から立ち上がる時、急にふらつきそうになった。
だが、俺を潰そうとしている敵の中、弱味を見せたら終わりだ。
だから、俺は、しゃんと背筋をのばし、いつものように大股で歩いた。
俺は、自信に満ちた強い首相でなければならないのだ。
今、迷いを見せたら、この国は収拾がつかなくなる。

久しぶりに、あいつの顔を間近に見た。
相変わらず不器用で、相変わらず喋り下手で、相変わらず気弱そうだった。
・・・法案には賛成します。あくまで国連決議を前提に・・・・
真直ぐに、こちらに視線を向けて、まるで原稿を読むように、あいつが喋った。
・・・協力には感謝する。早急に法案をまとめあげ・・・
俺は、あいづちをうちながら、心は宙をさまよっていた。

・・・おい、その大きな目で、俺を見つめるのはよしてくれ。その目は切ない。
・・・遠い昔、がんじがらめの愛の中で、のたうちまわった日々を思い出すじゃないか。
俺には、遠い昔のその人と、あいつの区別がつかなくなりそうだった。

壇上に立ち、少し猫背気味になりながら話すあいつ。
身長が高いあいつには、あのマイクの位置は少し低すぎるのかもしれない。
それでもあいつは話している。
時には相手を挑発するような言葉すら交えながら。
見るからに“一生懸命”だ。
そう思うと知らずに口元が緩む。
その瞬間、あいつの視線が俺に向けられた。
ほんの一瞬だが、強い視線。
強い意志に見開かれた目。
そんな目が俺が何者なのかを思い出させる。
そうだ。俺はあいつの「敵」だったんだっけ。

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