「純一郎、どうして相撲では仕切の時、両手を地面に付けるんだい？」
日本人だからって、その質問に答えるのは難しい。
フランスのシラク大統領は大の日本文化好きで知られている。
そこで純一郎は大相撲のビデオをおみやげとして持っていった。
「仕事の話」の後、そのビデオをそろって鑑賞していたときの事だった。
にやにや笑いながら純一郎の顔をのぞき込み返事を待つシラク。
「それは難しい質問だなぁ」
さすがの純一郎も苦笑いするしかない。
こんな時こそ、自分がうまい助け船を出さなくてはと思う晋三だが、
外国人ならではの虚をついた質問に、咄嗟にいい回答が思いつかない。

ああ、すみません、総理。晋三は歯痒かった。
なんでもシラク氏は、ハニワと土偶の違いも知っているらしい。
それはもはや知日家というより日本ヲタ。
フランスのタヌキ親父は食えない・・・。
盛（仮名）などと比べた自分の愚かさを密かに悔いる。

だがシラク大統領はさらに上手だった。
日本人たちが質問への答えを一生懸命考えて固まったその瞬間、
大統領はそのまま顔を純一郎に近づける。
・・・ちゅう。
「うわあああーっ」
晋三の絶叫がエリゼ宮にこだました。

しかし晋三は、その後さらに
フランスという国の凄さを知ることになる。

「えへへー、純ちゃんにちゅーしちゃったぁ」
先ほどまでの一国の大統領らしい振る舞いはどこへやら
シラク大統領は軽やかにスキップしながら会談室を飛び出す。
「だ、大統領、なんてことを・・・」
側近の一人があわてて後を追う。
「また食べちゃったんですね」
もう一人の側近はやけに冷めた表情でつぶやく。
どうやら珍しいことではないようだ。

何が起こったのかよく分からない顔をしていた純一郎は
数秒後にぽつんと言った。
「ほんとかよ・・・」

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