「・・・それで、今日の午後に森派としての・・」
福田の話を聞き流していた。森はつまらなそうに答えた。
「今日は外に飯食いにいくからヤダ」
森の言葉に福田は脱力感をおぼえた。しかしそれは今に始まったことではない。
今ではもうあきらめの境地となりつつある。
「そんなことより・・純ちゃん・・今夜どうかね。」
森は福田の傍らにいた純一郎をなめ回すように眺めた。
純一郎の表情が凍り付く。
福田がとっさに口を開いた。
「総理。小泉君は今日の午後は地元で会合です。」
純一郎の視線が福田と交錯する。純一郎にそんな予定はなかった。
「もうしわけありません。そんなわけで失礼します。」
純一郎は深々と頭を下げると優雅な足取りで部屋を後にした。

獲物ににげられた。森はますます不機嫌になっていた。
「つまんないな。こういうときはスポーツでストレス解消だな。」
福田は森から顔をそらしていった。
「ゴルフも結構ですがせめて掛け金はポケットマネーでお支払い下さい」
福田のせめてもの反撃だった。
「あーあ、つまんないなー秀ちゃんの方がよかったなぁ」
森はますます不機嫌になった。

執務室を出た福田の前に純一郎がいた。
「康夫さん・・ありがとう・・」
「気にするなよ純ちゃん」

ふいに福田が切り出した。
「純ちゃん・・森内閣はもうだめだ・・純ちゃんがあんな俗物と
心中する必要はないよ。純ちゃんだけでも・・」
「君を見捨ててかい?」
純一郎は優しくいった。
「そうだよ純ちゃん。君は総理になる男だ。それなのに・・」
福田の言葉を純一郎が遮った。純一郎は福田の肩に両手をおいた。
「そうさ、俺は総理になる!そして、君が官房長官になる。だろ?」
「純ちゃん・・・」
福田の目の前にいる純一郎は30年前と変わらないあの純一郎だった。

コンコン。
晋三は辺りをはばかり、小さくドアをノックした。
ドアはすぐに開けられ、そして閉まった。
「悪かったね、こんな時間に」
純一郎はそう言いながら、ベッドの端に腰を下ろした。
「いえ。どうかなさったんですか?」
「うん・・・・」
純一郎はそう言ったきり、黙って火の気のないマントルピースを見つめている。
(やはり・・・)
晋三には思い当たることがあった。
「おやすみになっておられないのですね?」
「いつからですか?いつから寝ていらっしゃらないんですか?!」
「色々なことを考えてね・・・・眠れない」
「わかりました。貴方がぐっすりとおやすみになるまで、
私はずっとここにいますから・・・・」
晋三は、純一郎がベッドに横になるのを助けながら、母のような優しい
微笑みを浮かべた。
(貴方はそうやって、いつも一人で、じっと痛みに耐えていらっしゃる。)
毛布をそっと胸の所まで引き上げた。
純一郎は目を閉じている。
照明を暗くしようと、枕元に手を伸ばした時だった。
晋三の手首を純一郎がそっと掴んだ。
「君がいてくれてよかった・・・」
「総理・・・」
純一郎の言葉に、晋三はそう答えるのが精一杯だった。
突然触れられたことに対する軽い混乱とは別に、胸に熱いものが込み上げてくる。
本当は彼の名を呼びたかった。
しかし、それは自分には許されないようことのように思えた。
彼は常に自分の分をわきまえる男だった。
手首に絡んだ純一郎の手は冷たい。
きっとどんなに熱くなっているように見える時も、この手は冷たいのだろう。
晋三はベットの傍らにかしずき、空いた方の手で純一郎の指をそっとはずすと、
両手でその手を包みこんだ。
「総理、きっと多くの国民があなたのことをそう思っていますよ」
「・・・そうかな?」
「ええ、もちろん」
「そうか・・・」
それきり純一郎は口をつぐんだ。
晋三の体温で純一郎の手が温まる頃、安らかな寝息が流れ出した。
晋三は包んでいた手をそっと毛布の中に戻すと、やっと訪れた眠りを破らないよう
静かに立ち上がって部屋を出た。
最新の注意を払って扉を閉じると、晋三は一瞬その前に立ち尽くし、純一郎の言葉を反芻した。
『君がいてくれて良かった』
「私も、あなたで良かったと思っています。純一郎さん・・・」
小さな声で誰に言うともなしに呟く晋三は、「仕える者」の幸福と悲哀を同時に感じていた。

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