ある日、本会議場を出ようとしたぽっぽを呼びとめる人物がいた。
「ぽっぽさん、少しお話したいのですがいいですか?」
「かぶと虫くんじゃないか……」
ぽっぽの党を離党して、新党を旗揚げした田中甲虫(仮名)だった。
「新党を作ったそうだね。なんていったっけ……ダサい名前の」
心ならずも、嫌味な台詞が口をついて出た。
かぶと虫とは、袈裟掛け(仮名)時代からの同志だったというのに。
「そんなことを言うものじゃありませんよ。だからあなたは人望がないと言われる」
「きみは正直すぎるね」
「それはあなたの欠点でしょ?チャットで言ってたじゃないですか。見ましたよ」
「いたのか!」
「もう少しタイピングを練習した方がいいなぁ」
「そんなことを言いに来たのか?」
「いいえ、あなたに一言だけ言いたかったんです」
「何を?」
「オマエモナー」

「オマエモナー」
その言葉は、2ちゃんねらーであるぽっぽの胸に突き刺さった。
「私には、あなたの後ろにもゾンビが見える。老組という名のね」
「なんだと」
「いや……ゾンビはあなたの方かもしれないな。知ってますか?
ゾンビはもともとブードゥー教の黒魔術師が墓場から蘇らせた『行ける死者』だ。
黒魔術師の操るままに、自分の心をなくし、永久にこき使われるだけの」
「いいかげんにしないか!」
「今のあなたは生きながら死んでいるも同じだ」
かぶと虫は冷たくそう言った。
「結党した時の理念はもう死んでいるのに、あなたは黒魔術で動かされている。
無党派の風は、もうあなたの方へは吹きませんよ。
一頭のライオンが巻き起こす暴風で、その華奢な翼を折られるのがいいところだ。
骨を拾うどころか、骨ごと食われそうな勢いじゃないですか。
なのにあなたは敵の大将に夢中だ」
ぽっぽの白い頬がさっと紅潮した。
「見てましたよ。先週の党首討論……あなた泣きそうだったじゃないですか」
ぽっぽは頭を横に振った。
「内部の敵を斬れない者に外の敵が倒せますか。あなたの政治は結局のところ、
数合せに終始する旧体制から一歩も踏み出せていない」
ぽっぽは、力なく椅子にくずおれた。
身を屈めて口を寄せ、かぶと虫は何事かをささやいた。

ぽっぽは、羽をむしられた鳩のようにうずくまっていた。
かぶと虫の声がまだ耳に残っていた。
(私は……まだあなたをあきらめていませんから)
(私なら、黒魔術からあなたを救えるかもしれない)
ぽっぽは思わず耳を押さえた。
だがその耳には、あの夜の純一郎の唇と、熱い息の感触が生々しく残っていた。
(俺の骨を拾ってくれ……)

(ぼくは……どうすれば良いのだろう)

 6日夜。都内のホテルに約30人の当選1-3回の民主党の中堅・若手議員が集まった。
次々に声が上がる。
「参院選までは鳩山由紀夫代表を支えるが、
その後は白紙でもいいんじゃないか」
 鳩山氏や菅直人幹事長ら執行部に対し、若手は冷めている。
参院選で惨敗すれば、首脳部交代を求める声も盛り上がりかねない。
「世代交代論だな」。中堅幹部の1人は、しみじみと感じた。
この記事を読んだぽっぽは、震えていた。

ボクはこれからどうなっちゃうんだろう?
こ、怖いよ・・・助けて純ちゃん・・・・・

純一郎は沖縄に向かう飛行機の中にいた。窓から下を見下ろすと一面に青い海が広がっている。
「生き物地球紀行」ファンの純一郎は、その番組に登場したさまざまな海中生物を思い出していた。
「人間以外の生物はいいよな・・・。文句を言わない。どこまでも謙虚だ。」
ふう・・とため息がもれた。そして今日のハードすぎるスケジュールを考えた。
沖縄で慰霊祭に出席の後、東京で都議選の最後の応援演説か・・・何を話そうかな。
ふとポッポの丸い顔が浮かんだ。度々ポッポの顔を思い出す最近の自分に少し
困惑したが、表面上はいつもの冷静さを装った。周りを見回す。近くに座っている
秘書の飯島はいびきをかいて眠っていた。「彼もよほど疲れているんだろう。
ご苦労さん」心の中で飯島に礼を言う純一郎であったが、頭の中にはまたもや
ポッポの顔が浮かんでいた。と同時に、もと社会党のドン、横路の四角い顔も浮かんだ。
「どうしたんだ、ポッポ。最近の君は横路くんに引っ張られすぎている。
もっと自分の主張を貫くべきだ。そしてそれは私の主張に限りなく近いはずだ。」
党内事情で仕方がない所はあるだろうが、それにしてもあまりにも「自分」というもの
を殺しているポッポのことを考えると、胸が痛む純一郎であった。

ぽっぽは・・・また泣いていた。
頑張るから、これからのボクを見ていて・・・
純一郎の背中に向かってそう言ったばかりなのに、
今はもう、涙が溢れて止まらない。
そんなぽっぽを蔑むように見ていた菅が、追い打ちをかけた。
「まったく、そんなお前のどこに惚れたんだ?純ちゃんは・・・」
「じゅ、純ちゃんを悪く言うな!悪いのは・・・悪いのは・・・」
「お前だな、どう考えても。」菅はどこまでも辛辣だ。
が、しかし菅もまた、追いつめられていた。
どうあがいても、純一郎は自分のものにならない。
最後の手段を彼は選んだ。
ある男との関係を純一郎に見せつけ、自分の存在を示すのだ。
この際、自分の好みを、どうこう言ってはいられない・・・
菅はその男の大きな顔を思い浮かべ、憂鬱になった。

「けっきょく対決しかないのだろうか」
ぽっぽは「民主党、対決姿勢へ」という見出しが踊る新聞を、脇へ放り投げた。
エールを送ってもつれない、正面から質問に答えようともしない……
もはや自分に残された道は対決しかないのかもしれない。
鳩の丸焼きにされて骨ごと食われてもいい。食われてあの人の血肉になれるのなら……と
そこまで考えてしまったが、まだ気が早すぎる。
強くなりたい。あの人と対等な立場で対峙できるだけの強さがほしい。
ぽっぽの心は千々に乱れ、いつしか彼はメモ用紙に純一郎の似顔絵を描いていた。
そしてその下に一言添えたくなった。
ぽっぽの筆が動いた。
「萌え〜」
それは、詩的ボキャブラリの少ない理系のぽっぽの頭に真っ先に浮かんだフレーズだった。
萌え〜。
末尾が「〜」なのがぽっぽなりのこだわりであった。
(純ちゃん……)
ぽっぽは窓から東京の曇り空を見上げた。
(沖縄は晴れているんだろうか)
ぽっぽの心には梅雨前線が重くのしかかり、ぽっぽのセンスは霧雨のように寒かった。
萌え〜。
その甘美な響きに、ぽっぽは目を閉じてうっとりした表情を浮かべた。
東京の都議会選挙は翌日に迫っている。
(とりあえず、もう少しじゃんけんに強くならないとなぁ)
純一郎の似顔絵に「萌え〜」と書き添えた紙が、6月の風に吹かれて
デスクの上からすべり落ちる。
ぽっぽの一途な恋心を語るその一言が、その後永田町を震撼させる大事件を
引き起こすことになるとは、この時のぽっぽには知るよしもなかった。

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