男は布団の中から暗い天井を眺め、無為に時間を過ごしていた。
隣では女が、精根尽き果てたという風情で眠っている。
時は夜。
乱れた夜具の中に、男と女が一人ずつ。
何をしていたかとは、聞くのが野暮というものだろう。
満足気な女を横目に、男もそれなりに疲れているのに眠れずにいた。
ごろりと寝返りを打つと、女の枕元に煙草とライターが転がっているのが見えた。
男は少し考え、腹ばいになると煙草を手に取った。一本取り出し、火をつける。
闇の中に一瞬、男の顔が赤く浮かんですぐに消え、後には光の点と煙が残された。
目に入る煙にわずかに顔をしかめながら、最初の一服を深く吸い、吐き出す。すると、
「泥棒」
声と共に、白い腕が伸び、男の細く伸びた指の間から、火のついた煙草が取り上げられた。
煙草は女の指の間に移り、続いて唇の間に落ち着いた。
「人聞きの悪い」
男はまた寝返りを打ち、女の方に体を向けた。いつから起きていたのか、とは聞かなかった。
「よしたんじゃなかったのかい?」
女の指の間で、赤い点が揺れる。
「…魔が差したんだよ」
「魔がねえ」
女はまた煙草をくわえて吸い込むと、ため息と共に天井高くに向けて吐き出す。
「疲れた…」
「よせよ。年寄りみたいだぞ」と、たしなめる男に向かって、
「誰のせいだと思ってるのさ」と、女は悪態をつく。
「全く、あんたって体はそんなんなのに…ねぇ」
女が顔を上に向けたまま寄越す意味ありげな視線を、男はまた寝返りを打ってやりすごした。

「どうせ何か嫌なことがあったんだろう?」
手の中の小さな火を、灰皿にもみ消しながら女が言う。火が消えて、漂う煙だけが残った。
「なんで?」
男は天井を向いたまま女に尋ねる。
「だっていつもそうじゃないか。あんたがここに来る時は、大抵何かが上手く行かなかった時さ」
「…そんなことはないよ」
苦笑しながら男は言う。だが、反論する言葉に力はなかった。
「別にあたしゃ構わないけどさ。あんた、あの子どうするつもりだい」
「あの子?」
「ほら、あたしの妹分の…」
言われて、男も最近気に入りの、若い芸者の顔を思い浮かべた。
「あの子か」
「あんたに褒められてからこっち、日がな一日三味線三昧さ。いじらしいじゃないか」
「へえ」
女の言葉に、男もまんざらでもなさそうな様子だ。
「で?どうするつもりなんだい?」
「どうするって…」
「向こうは完全にその気だよ。見てりゃわかるだろう。分かっててほっとくつもりかい?」
「………」
男は黙っている。沈黙の中で、煙草の残り香だけが強く存在を主張した。

homenext

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