伸晃は急いで階段を降りた。
振り返り、左右を確認し、そして扉を閉める。
その挙動不審さは、特撮に出てくる忍者役のようであった。
「ここならゆっくり見れそうだ…」
伸晃の腕に大事そうに抱えられた物、
それは行革の資料でもなければ、辻元メモでもない。
銀髪の細い瞳が伸晃へ優しい微笑みを送る。
例え本物でなくとも、写真の純一郎は伸晃の心を癒すに十分であった。
「やっぱり初版じゃなくっちゃな!」
伸晃は秘書に極秘で命じて、こっそり自腹で総理の写真集を購入していたのであった。
もちろんそんな回りくどい事をしなくても、
閣僚なんだから一言いえばコネで無料で手に入れられたのは確実だ。
「僕の財布から総理に貢ぐ。ああ…これでこそ正しい愛の形だ」
ちなみに伸晃は純一郎にギャラは一銭も入らないのを知らなかった。

段差にちょこんと腰掛けて、伸晃は嬉しそうに表紙を眺めた。
ハアッと息を吹きかけると、胸元から取り出したブランド物のハンカチで綺麗に拭いた。
「あっと。そうそう、まずは…」
赤裸々な純一郎を眺め倒すのは後のお楽しみにしておいて、
初版の特典であるブロマイド、これは大事に保管せねばなるまい。
伸晃はまたしても胸元から何か取り出した。
写真を収めるパスケースだ。ひとつひとつ、膝の上に重ねていく。
用心深い彼は、どんな大きさの物が付いてきてもいい様、
あらゆる大きさのケースを揃えておいたのだ。
さらにそれでもサイズが合わなかった場合に備えて、
ラミネート加工用のシートも持ってきた。
背広のどこにそんなスペースがあるのだ、伸晃よ。という突っ込みはさておいて、
膝の上に山程荷物を乗せて、いよいよお宝の方に取りかかる。
「ドキドキ…」
表紙裏。無い。では表3か。無い。??袋とじか?いやそうでもなさそうだ。
もしやカバーを外した背表紙に…んな訳はない。
伸晃は写真集を逆さにした。ごめんなさいと呟きつつ振ってみた。無い。
無い。無い。無ああああい!!

隠れてるのも忘れて、伸晃は大声をあげて立ち上がった。
膝上のケース達がバラバラと床に転がり落ちる。
実はブロマイドは秘書がちゃっかりパクっていたのであった。
哀れな伸晃は、この世の終わりの様に膝をつき、天を仰いだ。
「嗚呼…時期的にもう初版は無理だ…神よッ!」
絶望のあまり、脱力した伸晃の手から聖書(オイ)がこぼれ落ちた。
「しまった!」
言い忘れていたがここは倉庫である。しかもかなり埃っぽい。
清らかなる純一郎の分身が、このような埃まみれの床に触れるなんて…!
伸晃は慌てて写真集を受け止めようとした。
しかし、足元のパスケース達に足をとられ、伸晃の手は見当違いの所で空中を掻いた。
スパーン。綺麗な音を立てて写真集は床に落ちた。
予想以上につもっていた埃が、もうもうと笑顔の純一郎の上につもる。
惨劇に顔をしかめながら、伸晃自身も床に倒れた。
強く打った顔面よりも、愛する純一郎を汚してしまった心が痛い。
瞳の端に涙がキラリ☆とセンチメンタルな伸晃の横で、両側の棚が不吉に揺れた。
「は…」
大の大人の男が一人倒れた振動は意外とでかい。
微妙なバランスで荷物が山積みにされていた棚は、ぐらぁり、と傾いた。
倒れたままの伸晃の視線からは、
スローモーションで地獄の門が迫ってくるように見えた。

「石原大臣、どこに行っちゃったんですかねー」
「この忙しい時に、何やってるんだ?」
「昼食の予定、どうします?殿」
「しょうがないなー、I島君、一緒に行くか」
「はい、喜んでお供しますよ(ラッキー♪)」

後日、伸晃は何故か倉庫の大量の荷物の下で
「ブロマイド…」と呻いていた所を発見されたという。

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